ホーム>不妊治療の基本>ARTについて
不妊治療の基本

ARTについて

ARTについて

生殖補助医療 (Assisted Reproductive Technology : 以下ART) について

生殖補助医療 (Assisted Reproductive Technology : 以下ART)

体外で配偶子 (精子・卵子) や胚を取り扱い、受精や胚発生を促す技術、すなわち生殖を補助する医療技術のことをいいます。
現行の不妊治療では、ART技術による医学的介入 (医療行為) が主流になっています。ARTには、代表的な3つの人工的な授精法 (受精法) があります。

生殖補助医療とは?

Assisted Reproductive Technology : ART

体外で精子・卵子・胚を取り扱い
受精・胚発生を促す技術

生殖を補助する医療技術

現行の不妊治療では
ART技術による医学的介入(医療行為)が主流

 

代表的なART

 

1.子宮腔内人工授精

2.体外受精・胚移植法

3.顕微授精

 

人工授精

 1.  人工授精

 人工授精は、精子を子宮内に送り込むだけの方法で、最も自然妊娠に近いARTになります。
 本法は、私の所属していた慶大産婦人科研究室の大先輩により、1947年に日本で最初に試みられました。

 WHO基準による精液所見の下限値

精液量 1.5ml以上
精子濃度 1500万匹 / ml以上
総精子 3900万匹以上
精子運動率 運動精子:40%以上
高速運動精子:32%以上
精子生存率 58%以上
精子正常形態率 4%以上
体外受精

2.  体外受精

 体外受精は、体外に取り出した卵子に精子が自身の力で結合して侵入、受精する環境を整える方法で、人工授精に比べて圧倒的に少ない精子数で受精を可能する利点があります (手順は右図参照、当院ホームページでは詳細な説明は省略) 。体外受精児は、1983年に日本で最初に誕生しましたが、現在では年間約2万人が生まれています。
 本法は、最初は卵管性不妊 (子宮外妊娠を繰り返して卵管を切除したことによる不妊) を対象として臨床応用されました。子宮外妊娠を繰り返したということは、自然に妊娠したが着床する場所が たまたま子宮外であったということですから、卵子や精子の機能 (質) に問題はなく、このような場合には高い妊娠率が得られます。その後、本法は受精に必要な精子数が少なくて済むことから、精子減少症 (精液中の精子が少ない、上表のWHO基準参照) 治療の切り札として臨床応用されるようになりましたが、精子形成障害 (精巣で精子を造る機能が低下している造精機能障害) による精子減少症では、体外受精を試みても受精率が低く治療成績は低迷しました。そこで精子を卵子に人為的に穿刺注入して高い受精率を得られる顕微授精が普及するきっかけとなりました。

 

 

3.  顕微授精

 顕微授精は、体外に取り出した卵子に、極細ガラス針を用いて人為的に精子1匹を穿刺注入する方法です (下図参照) 。顕微授精児は、1995年に日本で初めて誕生しました。
 ほとんどの不妊治療施設において実際に顕微授精を実施してるのは、主治医 (医師) ではなく、胚培養士という立場の方々です。胚培養士は、日本卵子学会が認定する民間資格です。胚培養士は、顕微授精の実施以外にも、精子・卵子・胚の培養にも従事し、ARTの極めて重要な責務を担っています (➡詳細は胚培養士) 。

                   顕微授精では人為的に精子1匹を卵子に穿刺注入する

 顕微授精

4.  卵管型微小環境媒精による体外受精 (顕微授精回避法:Post-ICSI 人工卵管法)

 さらに4番目の受精法として、精子側の技術革新により体外受精の効率化を図った技術を開発しました(➡詳細は黒田メソッド)

胚培養士について ※「不妊治療の真実」 幻冬舎より抜粋

 この項目では、患者ご夫婦が目にすることがない胚培養士用顕微授精マニュアルを紹介します。

【胚培養士用顕微授精マニュアルの内容紹介】

 顕微授精において確実に精子を卵細胞質内へ注入することは、受精率、妊娠率を高めるための基本です。
 ここでは胚培養士のために顕微授精の工夫を紹介します。

1. インジェクションピペットの選択

 先端が鋭角でスパイクが長く、内径の細いピペットの方が、透明帯、卵細胞質の穿刺がし易く、かつ精子の注入時のPVP(ポリビニルピロリドン、精子捕獲用増粘剤)注入量を減らすことできるので、卵子の生存率、受精率が向上する。

2. 培養液とミネラルオイルの準備

 培養液は実施前日まで調製、分注し、ガス平衡化するためにキャップを緩めてインキュベーター内に保管する(作製後8日以上過ぎたものは使用しない)。オイルは一般的に品質の高いものの中から厳選する。

3. 精子の調整

 親水シランコートシリカを用いた2層法(92%、70%)にて精子を回収し、スパームウォッシングメディウムで洗浄する。

4. 卵丘細胞、顆粒膜細胞の除去

 卵子へのダメージを軽減するため、ヒアルロニターゼは培養液で40~60IU/mlに希釈する。この操作は顕微授精の直前に行うことが重要である。
 パスツールピペットを用いてヒアルロニターゼ液中でピペッティングし、顆粒膜細胞をバラバラにする。さらにヒアルロニターゼ液中では放射冠の除去を行う。これらの操作を30秒以内で行うことが重要である。

5. マイクロマニュピレーターへのピペットのセッティング

 インジェクションピペットの先端は、精子の不動化を容易にするため、水平よりやや下げて設定する。ホールディングピッペトはシャーレの底面と平行にセッティングする。

6. 顕微授精操作

手順1 顕微授精操作用のマイクロドロップを作成。
精子ドロップの辺縁よりインジェクションピペット内に直進している形態良好精子を吸引、PVPのドロップに排出。

手順2

精子の尾部をインジェクションピペットで押さえ、精子の頭部に障害を与えないように注意してディッシュの底で擦り不動化する。
手順3 不動化した精子を尾部側よりインジェクションピペット内に吸引し、再度ゆっくり排出-吸引してピペット内を精子が自由に動くか確認する。
手順4 精子を吸引したままピペットをジョイスティックで浮かせ、卵子の入っているドロップに移動する。
手順5 精子を卵細胞質内に確実に注入するために、ホールディングピペットで卵子の第1極体が12時もしくは6時の方向になるように把持する。
ディッシュの底に卵子が接触していると卵をうまく回転させる事ができないので、少し浮かせる。
手順6 卵細胞質とインジェクションピペットの先端にピントを合わせ、卵子の直径の2/3あたりまで穿刺して細胞膜を吸引する。
手順7 細胞膜の抵抗が抜けて、ピペット内に精子が急速に吸引される事で膜が破れた事を確認、精子を卵細胞質内に静かに注入し、ピペットに精子が付いてこない様に確認しながらゆっくりと引き抜く。
手順8 卵細胞膜を確実に穿破しないと、精子が穿刺口に戻る、また不正確な穿刺では卵細胞質が流出する場合があるので、穿破の判断は大変重要である。

 胚培養士用顕微授精マニュアルの大半は、どのようにして精子を卵子に注入するかの手技を紹介することに費やされており、どのような精子を注入するか、すなわち精子の質に関する記述はほとんど見当たりません (項目3のみ) 。

 一般的な不妊治療施設では、具体的にどの精子を捕獲するかは、胚培養士個人の判断に任されております。その選別基準は、精子運動と大まかな精子頭部形態を指標とすることが多いのです。これまでは運動精子=良好精子と考えられ、1匹でも運動精子がいれば顕微授精で妊娠できると宣伝されてきました。

 しかし実際のところは、当院ホームページで繰り返し解説しましたが、高度に選別した運動精子中にもDNA切断の初期段階にあるものや その他の機能異常を有する精子が含まれており、その頻度や程度は個人差が大きいのです。すなわち精子の運動性は必要条件でありますが十分条件ではないことを示唆しており、どのような運動精子を注入するかは治療の安全性に直結します。精子機能異常に由来する先天異常を明確に否定できない現段階では、DNA損傷精子の積極的な排除、および多面的な機能異常検査が穿刺精子の品質保証に繋がり、さらにはARTの安全性確保に必須なのです。

 上述した記述は、顕微授精の実施にあたり、胚培養士が精子に関する高度な知識を習得することが治療の安全性確保に不可欠であることを示しています。私は、胚培養士が卵子、胚に関する学識とともに精子に関する最先端の知識習得、研鑽を積まれることを希望します。

ページ上部へ