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不妊治療の基本

顕微授精が普及した理由

顕微授精が普及した理由

現在では顕微授精がART施行例の80%を占めるまでになっています。
臨床精子学の視点から申し上げると、そこまで顕微授精を普及させた原因は「精子に関する知識と
技術が出遅れた」ことに起因します。

 近年 急激に普及してきたARTですが、その歴史はまだ浅く、日本で体外受精が行わるようになり約30年、また顕微授精に至っては約20年ほどです。

ARTの普及

  右図に総出生数の減少、高齢出産の増加、ART出生児の増加をまとめましたが、ARTは この5年間で目覚ましく普及し、少子化問題を抱える日本の将来を考える上で不可欠な医療になりました。一般的に 女性が妊娠、出産することから、不妊原因は女性側に多いと思われがちですが、実は約半数は男性側に不妊原因があります (下図参照) 。

 女性の不妊原因の中で最も高い比率を占めている卵子形成障害 (排卵障害) ですが、現在ではさまざまなホルモン製剤 (排卵誘発剤) が開発されたことにより、成熟卵子の形成 (有効排卵) を促すことが可能になりました。その結果、女性不妊の治療成績は飛躍的に向上してきました。

  一方で、男性の不妊原因の90%は、精子形成障害 (造精機能障害) です。そのほとんどが原因不明であり、現在でもホルモン製剤の有効性は低く、根治療法 が確立されていません。そこで、体外受精や顕微授精などのARTが対症療法として汎用されてきました。不妊治療にARTが導入された当初から「運動精子=良好精子」という認識が定着していることから、男性不妊においては、運動精子を選別・濃縮して体外受精を施行する治療法が主流にな りました。

不妊原因割合

  しかし重症例では、体外受精を試みても、その受精率は予想よりも低く、治療成績が低迷しました。そこで、効率よく受精率を上げら れる方法として、人為的に精子1匹を選んで卵子に穿刺注入して授精させることができる顕微授精が汎用されるようになりました。そのような背景から、顕微授精は「1匹でも 精子がいれば妊娠できる授精法」で、「精子の状態が悪い方に対する唯一の対症療法」であると宣伝され、さらには「男性不妊、すなわち精子の問題は解決した」という 認識が定着してしまいました。

 今では、ほとんどの不妊治療施設では顕微授精の適応が拡大され、顕微授精がART施行例の80%を占めるまでになっています。しかし実際のところ、「顕微授精は精子の状態が悪い方には不向きの治療」なのです。言い換えれば、顕微授精は精子の数的不足 (精子数が少ない) を補う技術であり、質的異常 (精子の状態が悪い、すなわちDNA損傷を含めて精子機能異常) をカバーすることはできません。それにもかかわらず、「精子に関する知識の不足」と「精子技術の出遅れ」が「顕微授精ならば精子の状態が悪くても 1匹でも精子がいれば妊娠可能である」という理解に繋がり、「どのように精子を卵子に穿刺注入するのか」という技術面ばかりが注目されてきました。

 これまで、「どのような精子を卵子に穿刺注入するのか」という精子の選別と質の評価については明確な基準はなく、ほとんど関心が持たれませんでした。あくまでも「運動精 子=良好精子」という認識のまま顕微授精が行われ、「出生児は当然健常である」と考えられてきました。しかし実は、運動精子の中にもDNAが損傷されたものが含まれており、一概に「運動精子だから良好であり、運動精子を用いたARTは安全である」とは言えないのです。言い換えれば、男性不妊治療において、「運動精子は良好精子である」「顕微授精は安全である」という認識の裏に潜む先天異常を初めとするリスクと安全管理の問題は直視されないまま、約20年が過ぎて現在に至ったということです。

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