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精子選別の重要性

精子選別と評価の重要性

ヒト精子のDNA修復機構は特殊である

ヒト精子のDNA修復機構は特殊

ヒト精子のDNA修復機構は一般の体細胞とは異なり、特殊な立場にあります。
この精子特有の性質を考慮しないまま顕微授精が行われていることが、出生児のリスクに繋がっている可能性があることをご存知ですか?
またDNA修復機構とは、どのような仕組みなのでしょうか?

精子の発生

 人間の体を構成している数えきれないほどの細胞 (体細胞という)には、遺伝情報を正確に伝達するために傷ついたDNAを修復する機構が備わっています。だからこそ、細胞の正常性が維持されて健康が守られているのです。この人間が健康に生きていくために必須であり極めて重要な仕組みが「DNA修復機構」 なのです。

 例えば、皮膚や肝臓などの一般的な体細胞では、DNAが多少損傷しても細胞自身が持っているDNA修復酵素によって修復されます。これはヒトの卵子も同様ですが、ヒトの精子ではそうは参りません。それでは、ヒト精子のDNA修復機構はどうなっているのでしょうか?

 その前に、まず「精子がどのように造られるのか」ですが、ヒト精子の形成は思春期に入ると開始されます。精巣において未分化な精原細胞が分化、増殖して精母細胞が形成され、その後2回の減数分裂を経て、74日を要して精子が形成されます (右図参照) 。その形成過程で、ヒト精子の場合、DNA修復能力が失われてしまいます。

 つまり、ヒト精子はDNA修復酵素を持っていません。その結果、損傷したDNAは修復されることなく残り、射精された精子の一部にDNA損傷精子が混在してきます。その頻度と程度は個人差が大きく、精子ごとに大きく異なります。そして、その精子DNA損傷は、卵子に侵入した後に卵子側のDNA修復酵素によって修復されますが、体外の培養液中で どの程度修復されるかは不明です。

ヒト精子DNA修復機構

ヒト精子は第2減数分裂以降に
DNA修復力を失う

射精精液中にはDNA損傷精子が混在

ヒト精子DNA損傷は
精子の卵子侵入から前核形成まで
の17-18時間に卵子側がDNA修復

 

しかし、体外の培養液中において
その機構がどの程度動くかは不明

 

先天異常率についての報告

 

 このような理由で、ARTとくに顕微授精において、DNA損傷のない精子 (DNA非損傷精子) を穿刺注入することが不可欠になってきます。

 一般的には運動精子=良好精子という認識が定着していますが、実は運動精子の中にもDNA損傷精子が含まれています(➡詳細は良い精子は数や運動率だけでは見分けられない)。

 すでに欧米では、顕微授精により出生した児の先天異常率が自然妊娠に比べて有意に高いことを述べた論文が多数報告されています (左図参照) 。精子だけに存在するこの問題点が十分に認識されないまま顕微授精が汎用されている現状が、出生児へのリスクに繋がっていると考えられます。

良い精子は数や運動率だけでは見分けられない

現在「運動精子=良好精子」という概念が定着していますが、見た目の精子数や運動率だけでは良い精子を見分けることはできません。この点を考慮しないまま顕微授精が行われていることが、出生児のリスクに繋がっている可能性があることをご存知ですか?

 これまで不妊治療の研究領域では、産婦人科医が主体になり、女性側の研究 (女性内分泌、卵子・胚形成、子宮内環境、胎児発育など) を盛んに進めてきました。一方、男性側の研究、とくに精子に関する研究は家畜 (ウシ) 繁殖領域で精力的に行われ、この領域の成果がヒトART (不妊治療) に導入されてきました。ここに大きな落とし穴がありました。なぜならば、ウシ精子の品質 (DNAを含む精子機能) は極めて良好であり、精子間にバラツキがないオス (種オス) が選抜されて一括して精液を提供し、これを用いてデータを取ってきたからです。

 種オスのウシ精子は、DNA損傷を含めてヒトでは考えられないくらい品質 (機能) が極めて良好で、バラツキがほとんどありませんので、「ウシ種オスでは精子性善説 (射精された精子の中のどの精子においても全ての精子機能が正常である) が成立」しています。一方、ヒト精子の場合は、その形成過程でDNA修復能力を失い、正常の精子形成能力を備える男性でもDNA損傷精子が一定の比率で産出されますので、射精精液に含まれる精子の一部にDNA損傷精子が混在してきます。とくにARTの治療対象となる男性不妊では原因不明の精子形成障害 (造精機能障害) であることが多く、精子DNA損傷率も高くなりますので、「ヒトでは精子性善説が成立しない」のです。

 言い換えれば、ヒト精子においては運動性は必要条件ではありますが、必ずしも十分条件ではなく、見栄えの良い元気そうなヒト精子であってもDNAが損傷している精子もあるということです。つまり、ヒトの場合には、良い精子は数や運動率などの見かけだけでは品質 (機能) を評価できないのです。

 2009年には日本産科婦人科学会においても、精子数や運動率は必ずしも精子の質を直接反映するものではないとコメントしています (下図) 。しかしほとんどの不妊治療施設では、世界保健機構 (WHO) がまとめたヒト精液の下限値を基に (下図) 、精子数、運動率、頭部形態等を指標としての精子側の妊孕力(女性を妊娠させる能力)を評価してきました。

日本産科婦人科学会雑誌
Vol 61,No.6, N-189, 2009

4.不妊症

一般精液検査は精液や精子の量的性状を示しているだけであり、必ずしも精子の質的性状(受精能力)を直接反映するものでないことに留意する

WHO基準による精液所見の下限値

精液量 1.5ml以上
精子濃度 1500万匹 / ml以上
総精子数 3900万匹以上
精子運動率 運動精子:40%以上
高速運動精子:32%以上
精子生存率 58%以上
精子正常形態率 4%以上

 

 中でも、精子の最も特徴的な機能である運動性に着目し、顕微鏡で覗いて「運動精子であれば良い精子」である判断しています。言い換えれば、運動精子のDNAは正常であるという精子性善説が大前提になっているのです。

 このように、ウシとヒトとの病態モデルは大きく異なることが十分に認識されないまま、顕微授精が汎用されてきたことが問題であり、出生児へのリスクに繋がっている可能性が考えられます。

精子選別および選別精子の品質管理の重要性について

ARTに用いる精子のDNAは損傷されていないことが必須です。

そこで、「どのようにDNA非損傷精子を選別」するか?言い換えれば、「どのようにDNA損傷精子を排除」するか?
さらに、「どのように精子DNA損傷の程度を観察・確認」するか?

これらの点が、ARTの安全性戦略には不可欠なのです。

 ➡詳細は黒田メソッドへ

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