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精子選別の重要性

良い精子は数や運動率だけでは見分けられない

良い精子は数や運動率だけでは見分けられない

現在「運動精子=良好精子」という概念が定着していますが、見た目の精子数や運動率だけでは良い精子を見分けることはできません。この点を考慮しないまま顕微授精が行われていることが、出生児のリスクに繋がっている可能性があることをご存知ですか?

 これまで不妊治療の研究領域では、産婦人科医が主体になり、女性側の研究 (女性内分泌、卵子・胚形成、子宮内環境、胎児発育など) を盛んに進めてきました。一方、男性側の研究、とくに精子に関する研究は家畜 (ウシ) 繁殖領域で精力的に行われ、この領域の成果がヒトART (不妊治療) に導入されてきました。ここに大きな落とし穴がありました。なぜならば、ウシ精子の品質 (DNAを含む精子機能) は極めて良好であり、精子間にバラツキがないオス (種オス) が選抜されて一括して精液を提供し、これを用いてデータを取ってきたからです。

 種オスのウシ精子は、DNA損傷を含めてヒトでは考えられないくらい品質 (機能) が極めて良好で、バラツキがほとんどありませんので、「ウシ種オスでは精子性善説 (射精された精子の中のどの精子においても全ての精子機能が正常である) が成立」しています。一方、ヒト精子の場合は、その形成過程でDNA修復能力を失い、正常の精子形成能力を備える男性でもDNA損傷精子が一定の比率で産出されますので、射精精液に含まれる精子の一部にDNA損傷精子が混在してきます。とくにARTの治療対象となる男性不妊では原因不明の精子形成障害 (造精機能障害) であることが多く、精子DNA損傷率も高くなりますので、「ヒトでは精子性善説が成立しない」のです。

 言い換えれば、ヒト精子においては運動性は必要条件ではありますが、必ずしも十分条件ではなく、見栄えの良い元気そうなヒト精子であってもDNAが損傷している精子もあるということです。つまり、ヒトの場合には、良い精子は数や運動率などの見かけだけでは品質 (機能) を評価できないのです。

 2009年には日本産科婦人科学会においても、精子数や運動率は必ずしも精子の質を直接反映するものではないとコメントしています (下図) 。しかしほとんどの不妊治療施設では、世界保健機構 (WHO) がまとめたヒト精液の下限値を基に (下図) 、精子数、運動率、頭部形態等を指標としての精子側の妊孕力(女性を妊娠させる能力)を評価してきました。

日本産科婦人科学会雑誌
Vol 61,No.6, N-189, 2009

4.不妊症

一般精液検査は精液や精子の量的性状を示しているだけであり、必ずしも精子の質的性状(受精能力)を直接反映するものでないことに留意する

WHO基準による精液所見の下限値

精液量 1.5ml以上
精子濃度 1500万匹 / ml以上
総精子数 3900万匹以上
精子運動率 運動精子:40%以上
高速運動精子:32%以上
精子生存率 58%以上
精子正常形態率 4%以上

 

 中でも、精子の最も特徴的な機能である運動性に着目し、顕微鏡で覗いて「運動精子であれば良い精子」である判断しています。言い換えれば、運動精子のDNAは正常であるという精子性善説が大前提になっているのです。

 このように、ウシとヒトとの病態モデルは大きく異なることが十分に認識されないまま、顕微授精が汎用されてきたことが問題であり、出生児へのリスクに繋がっている可能性が考えられます。

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